雑感

血の様に真っ赤な理想で。(S)

2012年12月3日

[(an imitation) blood orange](初回限定盤)(DVD付) 遡ることつい先日。言わずと知れた国民的 ジャパニーズポップスバンド、Mr.Children http://www.mrchildren.jp/ の新譜【(an imitation)blood orange】 が発売になりました。 前作【SENSE】から2年間を経てリリースされたこのアルバムは最近の彼らの特徴の一つと言えるポジティブな言葉が並ぶ、言わば『白のミスチル』が炸裂したアルバムであると言えるのではないかと思います。
・・ただ、本質である精神世界までそうなのかと問われると、またこれがしっくり来ないというか。例を挙げて検証していきましょう。 冒頭を飾る「hypnosis」
この曲の詩世界は、夢を適えるために頑張ってるけど報われない。自分だけ解ってりゃいいやとか現実逃避を考えでもまた頑張ろうと決めた・・と言う一見非常に王道的なポジティブソングなのですが、問題は着地点。 結びの歌詞の一部分にはこうあります。『叶うならこのまま 夢のまんま もう現実に引き返せなくたっていい』 これを聴いたときに背中に強烈な違和感の旋律が走り、慌てて他の曲も聴いてみましたが、やはり噛み合わない事ばかり。何故なら自分の中で、Mr.Childrenとは徹底した現実を唄うバンドだったからです。 「マシンガンをぶっ放せ」「LOVEはじめました」と言ういかにも世の中を斜めに見ている様な曲。「ALIVE」や「Any」等の、それでも日々のルーティンワークを肯定していく曲。
「prism」や「I'm sorry」等の暗く悲しい叫びを閉じ込めた曲もあれば「友とコーヒーと嘘と胃袋」「デルモ」と言った一歩引いた視点で人を見ている曲もあり、その上で「OVER」や「車の中で隠れてキスをしよう」等の切なくもどかしい恋愛も描き「イノセントワールド」「蘇生」等の人間賛歌のハードルも越えてしまう。 本来一人の人間ではとても経験できないような、とっ散らかってる筈のそれらを自分たちの文脈として纏めるには、手に取る人間が容易く情景を想起できる正確な描写とどっしりと根を生やした説得力が無くては難しい事でしょう。奇麗事だけでもいけないし、ガチガチの正論は社会では鼻噛みのティッシュにすら成らない。人肌の温度と空気を宿しているのに、どこか歪な矛盾を抱えた物語性を内包している要素こそがMr.Childrenと言うバンドにその根を生やし、結果現在の地位を確立したのであると自分の中では定理付け、結果15年以上も邦楽のヒットチャートをトップクラスで走り続けているのだと納得していました。 ところが。「hypnosis」に於いては全く其れが無い。夢を抱いては破れ立ち上がり、また苦悩してと言うのは決して不思議な話でも何でもない。届かずして朽ち果てようと、その場所に到達しただけでは満足せずまた新たな夢を描こうともそれらは目の前に現れた結果でしかなく、最終的には総て現実にしか無らないのに、どうして其処まで夢を手放しに賛美するのかと。それらは連日連夜室内や路上やライヴハウスで沢山の人に歌われている事なのに、今ミスチルがこの曲を歌うことに何の意味があるのか、と。 そうやってひとしきり煩悶した後、何気なくこの楽曲のタイトルに初めて眼を遣りました。 「hypnosis」。心理療法における、催眠状態を表した言葉。 少しだけ解った様な気がしました。このアルバムはポジティブなものでは決して無い。虚勢を張り前向きな言葉を発し、もがきながらも日々の車輪を廻し続ける現実の姿そのものであると。
この事に気付いた時に、自分の中でこの【(an imitation)blood orange】とはここ数年のMr.Childrenを表した造語であると言う結論が産まれ、ほっと胸を撫で下ろす事が出来ました。 この解釈が本当かどうかは解らないし、恐らくは桜井さん自身も、これと言う正解を一言では表せないだろうと思います。未だに良く解らない自分を見つける終わりなき旅をMr.Childrenは続けていくだろうし、自分もそうありたいと心から願う、今この時です。 皆さんは、どんな事をこのアルバムに思うのでしょうか? Mr.Children [(an imitation) blood orange] 1. hypnosis
2. Marshmallow day
3. End of the day
4. 常套句
5. pieces
6. イミテーションの木
7. かぞえうた
8. インマイタウン
9. 過去と未来と交信する男
10. Happy Song
11. 祈り ~涙の軌道

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